個人民事再生手続による債務の整理
1
民事再生手続によった場合の返済額
(1)
まず、以下のように、最低弁済基準額が法律で定められています。
基準債権の額 |
最低弁済基準額 |
100万円未満 |
その金額 |
100万円以上 500万円未満 |
100万円 |
500万円以上 1500万円未満 |
その金額の5分の1 |
1500万円以上 3000万円以下 |
300万円 |
3000万円超 5000万円以下 |
その金額の10分の1 |
※ したがって、例えば借金の総額が500万円である場合には100万円が最低弁済
額になります(ここまで債務を減らすことができる可能性があるということで
す)。
※ 基準債権は、もちろん法定利率による再計算後の金額です。
※
民事再生には、住宅ローン特別条項を定めることができます。この特別条項に
よってローン返済中の住宅を守ることができます。
この特別条項を定める場合には、住宅ローンの残高はこの基準債権に含まれま
せん。
※ 住宅ローンはそのままにして、その他の債務を大幅に減らすことができる点に
この手続の大きなメリットがあります。
(2)
次に債務者の方の有している財産の価額の総額を算出します。
お手持ちの現金・預貯金・積立金・保険解約返戻金・退職金見込額・自動車等が
主な財産になるでしょう。
現実的にこれらの財産を処分することはありません(ここが破産手続と大きく違
う点です)。
しかし、これら財産の価額を算出し、その額以上は返済すべきとされています。
特に大きな財産を有していない場合には、手続利用者に有利となります。
なお、住宅等不動産については、その売却代金から住宅ローンの残額を差し引い
た額マイナス(オーバーローン)の場合には問題はありません。逆に売却代金か
らローンを返済しても余りがでるような場合には、その余りの部分も加算しなけ
ればいけません。
(3)
この1と2のいずれか高い金額が返済額ということになります。
したがって、1の最低弁済基準額によれば100万円まで債務が減るという場合に
お手持ちの財産の総額が100万円以下であれば、そのまま100万円が返済額とな
りますが、お手持ちの財産の総額が100万円を超えて150万円あるという場合に
は、150万円が返済額ということになります。
ただし、債権者の数が少なく、また再生計画案に不同意を表明するおそれがある
場合には、最低基準額よりも多めの返済額による返済計画を作成したほうがよい
場合もありえます。
2
民事再生による返済期間
原則3年間です。例えば上記のように500万円の借金が100万円に減った場合には、
その100万円を3年間で弁済する計画が裁判所で認可されれば、1か月あたり2万
8,000円ほどの返済をしていけば、当初の500万の借金がなくなるということです。
3
民事再生手続をとることができる条件
(1)債務の総額が5000万円以下であること(住宅ローンは除く。)
(2)将来、継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
通常の場合であれば(1)の要件は問題ないと思います。問題は(2)の要件でしょ
う。安定した収入があることが、民事再生手続を利用するための必須の要件とされて
います。
正社員の方であれば通常問題ありません。アルバイト(パートタイマー)の方や派遣
社員の方などの場合、問題とはなりますが、一律に利用できないとされるのではなく、
相当期間雇用が継続している実績がある場合などには利用可能な場合があります。
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民事再生の対象とはならないもの
民事再生手続で整理(減額)の対象となる債権は再生債権と呼ばれます。通常の借
金はここに入りますが、以下のような特別の債権は別扱いとされます。
(1)所得税や住民税などの税金・社会保険料・再生手続のために裁判所に納める手数
料等がこれにあたります。これらについては減額の対象とはなりませんので、再
生手続とは別に随時返済しなければなりません(一般優先債権といいます)。
(2)次に、共益債権です。通常これにあたるのは、電気・ガス・水道料金などです。
これも原則として再生計画とは別扱いとなり再生後も随時支払うことになります。
(3)担保権のついている債権
通常あるのは、車のローンです。車のローンの場合、通常は所有権留保といって、
車のローンが完済するまではローン会社が所有権を有しています。ローンの返済
をとめた場合には、ローン会社がその車を引き上げることになります。
この場合には、車のローンの残額全部が再生債権となるのではなく、ローンの未
払額と車の評価額の差額(不足額)が再生債権となります。
なお、
住宅ローンの特別条項を定めた場合には、住宅ローンの残額全部が再生債
権から除かれ、不足額のみ再生債権となるのではありません。
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民事再生手続にかかる費用
民事再生手続は、裁判所を利用する手続であるため、裁判所へ収める費用(実費)
がかかります。具体的には以下のとおりです。報酬には別途消費税がかかります。
収入印紙代 1万円
予納金 11,290円
郵券 5,200円
個人再生委員のための予納金 25万円(原則)
事務所作成報酬 35万円
(住宅ローン特則あり:48万円)
この中で最も負担が大きいのが個人再生委員のための予納金でしょう。
これは申立後に分割して再生委員の口座に振り込むことになります。
東京地裁の場合には、申立が弁護士によるか司法書士によるかにかかわりなく、
全件、この個人再生委員が選任されますので、どうしてもかかる費用ということ
になります。
この費用負担については考えるところではありますが、民事再生の申立により、
それまでの業者への返済は止めることができるため、業者への返済額をこの予納
金にまわすことができる場合があること、また、この費用がかかっても大幅に借
金額を減らすことができることなどを考えると、費用を払っても利用することを
検討する価値はあるといえるでしょう。
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民事再生手続にかかる期間
東京地方裁判所の場合には、通常、申立てから6か月間です。
ただし、申立ての前に準備期間があります。
なお、申立人ご本人には、再生委員との面談をしていただく必要があります。
通常、面談は、再生委員の事務所で行なわれます。